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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)581号 判決 1994年10月18日

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2(一)  主位的請求

被控訴人らは控訴人ら各人に対し、連帯して各一〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  予備的請求

(1) 被控訴人早川和廣、同元木昌彦、同野間佐和子及び同株式会社講談社は控訴人ら各人に対し、連帯して各二五万円及びこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 被控訴人森岩弘、同野間佐和子及び同株式会社講談社は控訴人ら各人に対し、連帯して各二五万円及びこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3) 被控訴人島田裕巳、同佐々木良輔、同野間佐和子及び同株式会社講談社は控訴人ら各人に対し、連帯して各二五万円及びこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4) 被控訴人野間佐和子及び同株式会社講談社は控訴人ら各人に対し、連帯して各二五万円及びこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

主文と同じ

第二  事案の概要

一  本件は、被控訴人らが宗教法人幸福の科学(以下「幸福の科学」という。)及びその主宰者である大川隆法こと中川隆(以下「大川主宰」という。)を誹謗中傷する記事を雑誌等に執筆掲載したことにより、幸福の科学の正会員である控訴人らの宗教上の人格権、名誉権、伝道の自由、営業上の利益等を侵害し、その結果、控訴人らは精神的損害ないし財産的損害を受けたと主張し、控訴人らが被控訴人らに対し右精神的損害等の賠償を求めた事案である。

二  前提事実--当事者

1  控訴人らの地位

幸福の科学は、昭和六一年秋大川主宰により、「地上に降りたる仏陀(釈迦大如来)の説かれる教え、即ち、正しき心の探究、人生の目的と使命の認識、多次元宇宙観の獲得、真実なる歴史観の認識という教えに絶対的に帰依し、他の高級諸神霊、大宇宙神霊への尊崇の気持ちを持ち、恒久ユートピアを建設すること」を目的として設立され、平成三年三月七日に宗教法人格を取得した宗教団体である。控訴人らは、幸福の科学の正会員であり、幸福の科学の代表役員である大川主宰を、神の言葉を預かる予言者、地上に降りたる仏陀として信仰の対象としている。(右事実は、甲一ないし二〇、二六、弁論の全趣旨により認められる。)

2  被控訴人らの地位(いずれも争いがない。)

(一) 被控訴人株式会社講談社(以下「被控訴人会社」という。)は、雑誌及び書籍の出版等を目的とする株式会社であり、雑誌「週刊フライデー」、同「週刊現代」、同「月刊現代」を出版している。

また、被控訴人会社の子会社である株式会社日刊現代は、日刊紙「日刊ゲンダイ」を発行し、同じく子会社である株式会社スコラは、旬刊誌「スコラ」を発行している。

(二) 被控訴人野間佐和子は、被控訴人会社の代表取締役である。

(三) 被控訴人元木昌彦は、別紙(二)「講談社による幸福の科学関連記事の見出しと新聞広告の見出し一覧表」の週刊フライデー欄記載の各記事が週刊フライデーに掲載された際に同誌の編集人であつた者、被控訴人森岩弘は、同一覧表の週刊現代欄記載の各記事が週刊現代に掲載された際に同誌の編集人であつた者、被控訴人佐々木良輔は、同一覧表の月刊現代欄記載の各記事が月刊現代に掲載された際に同誌の編集人であつた者である。

(四) 被控訴人早川和廣は同一覧表の週刊フライデー欄記載のとおり、週刊フライデーの記事の執筆者であり、被控訴人島田裕巳は、宗教学を専攻する日本女子大学史学科助教授であり、同一覧表の月刊現代欄記載のとおり、月刊現代の記事の執筆者である。

三  前提事実--本件各記事の執筆、掲載

被控訴人会社、株式会社日刊現代又は株式会社スコラは、別紙(二)「講談社による幸福の科学関連記事の見出しと新聞広告の見出し一覧表」記載の各記事(以下「本件各記事」という。)をそれぞれが発行している週刊フライデー、週刊現代、月刊現代、日刊ゲンダイ、スコラ(以下、これらの雑誌、日刊紙を「本件各雑誌等」という。)に掲載して、これらを販売した。また、被控訴人早川は、本件各記事のうち同一覧表の週刊フライデー欄記載の記事の一部を執筆し、同島田は、本件各記事のうち同一覧表の月刊現代欄記載の記事の一部を執筆した。本件各記事には、別紙(三)「掲載記事の抜粋」1ないし35記載の記述等が含まれている。(右事実は、《証拠略》によつて認められる。なお、右一覧表記載のうち、週刊フライデー平成三年八月二三日・三〇日号、同年九月六日号、同月一三日号、同月二〇日号、同年一〇月四日号、同月一一日号、同月一八日号、同月二五日号、週刊現代平成三年七月六日号、同年九月二八日号、同年一〇月一二日号、月刊現代同年一〇月号の各記事が執筆、掲載されたこと、右各記事に右「掲載記事の抜粋」4、13、16、20、24記載の記述等が含まれることは争いがない。)

四  本案前の主張

1  被控訴人ら

(一) 控訴人らの請求は、被控訴人らが控訴人らの信仰妨害を行つたということを問題にしているものでも、控訴人らが被控訴人会社の出版物を読むことによつて精神的平穏等を害されたということを問題にしているのでもなく、単に被控訴人会社が大川主宰に触れた出版行為を行つたこと、すなわち、大川主宰を「けがした」ことを不当として被控訴人らに対し慰謝料等の支払を求めるものであるが、幸福の科学の信者というだけでこのような法的地位を認められるものでないことは明白であり、本件請求は権利保護の利益を欠くものである。したがつて、本件訴えは不適法である。

(二) 控訴人らの本件請求は、大川主宰を特別な存在として位置付け、同人に対する「不敬」を一切許さないとする思想に貫かれたものであり、思想及び良心の自由、言論、出版及び表現の自由に違背する前近代的なもので、憲法秩序を真つ向から否定するものであるから、その請求内容自体が公序に反し、権利保護の利益を欠くものであつて、本件訴えは不適法である。

(三) 幸福の科学は、平成三年九月二日以来、全国の信者を組織的に動員し、被控訴人会社の本社、支社に電話、ファクシミリ送信を集中し被控訴人会社の通信機能を遮断して業務を麻痺状態に陥れ、さらに本社社屋に信者ら多数を突入、占拠させるなど悪質な業務妨害行為を繰り返してきたものであるが、本件訴えは、幸福の科学が、右不法な業務妨害行為の一環として、被控訴人会社へ政治的な打撃を加え、被控訴人会社の信用を毀損することを目的に、信者らを動員して全国七カ所の裁判所に提起させた訴えの一つである。右のとおり、本件訴えは、その動機、目的において違法なものであるから、権利保護の利益を欠き、不適法である。

2  控訴人ら

被控訴人らの主張はすべて争う。

控訴人らは、被控訴人らの大川主宰及び幸福の科学に対する「言論の暴力」によつて、控訴人ら各人がその宗教上の人格権等を侵害されたと主張して本訴を提起しているものであり、単に被控訴人らが大川主宰をけがしたことを理由として慰謝料等を請求しているのではない。また、控訴人らは、本訴において、「言論の暴力」ともいうべき、捏造記事を中心とする大川主宰及び幸福の科学に対する誹謗中傷記事を問題にしているものであり、通常の報道記事を問題にしているのではない。さらに、本件訴えは、被控訴人らの「言論の暴力」によつて宗教上の人格権等を侵害された控訴人らが各自の意思に基づき司法救済を求めて提起したものであり、幸福の科学が被控訴人会社に政治的な打撃を加えること等を目的として会員に提起させた訴訟などではない。

五  控訴人らの請求原因

1  不法行為

被控訴人らは、捏造された又は内容虚偽の本件各記事を本件各雑誌等に執筆ないし掲載して、大川主宰及び幸福の科学を誹謗中傷し、大川主宰及び幸福の科学の名誉を毀損した。

被控訴人会社の子会社である株式会社日刊現代は、日刊紙「日刊ゲンダイ」を発行し、同じく子会社である株式会社スコラは、旬刊誌「スコラ」を発行しているところ、右各子会社は、被控訴人会社のほぼ全額出資の会社であり、被控訴人会社で編集長等を勤めたことのある人物が代表取締役となつているなどの事実から、日刊ゲンダイ、スコラは、実質的には、被控訴人会社が発行しているものとみなし得る。

本件各記事の内容は、幸福の科学ないし大川主宰を誹謗中傷するものであるが、その根拠として述べられている各事実はいずれも捏造されたものか、あるいは何らの根拠もない虚偽のものであり、本件各雑誌等に右各記事を掲載して出版・販売し、あるいはこれを執筆した被控訴人らの行為(以下「本件各行為」という。)は、悪意をもつて、捏造記事、虚偽の記事を中心に、大量に反復、継続して幸福の科学及び大川主宰を誹謗中傷するものであつて、刑法の名誉毀損罪、礼拝所不敬罪に該当し、あるいは国際人権B規約二〇条二項やマスコミの公共的性格にも抵触する強度の不法性を有する行為というべきである。

2  被侵害利益

被控訴人らの本件各行為により、控訴人ら幸福の科学の正会員は、後記のとおり、宗教上の人格権(憲法一三条及び二〇条を解釈指針として、民法七一〇条の規定の類推により導かれる権利である。)の具体化としての「自らが帰依する宗教団体及びその信仰の対象たる御本尊を、行き過ぎた誹謗中傷の言論により傷つけられて心の静穏を乱されることのない利益」、名誉権、伝道の自由を侵害されて精神的損害を受け、また、営業上の利益を侵害されて財産的損害を被つた。

控訴人らは、すべて幸福の科学と入会契約を締結した正会員である。正会員とは、自らの正しき心を日々探究する意欲を有し、原則として幸福の科学の書籍を一〇冊以上読み、入会願書の審査を経て幸福の科学に入会を認められた者であつて、入会の際幸福の科学の根本教典である「正心法語」を与えられ、月額一〇〇〇円の会費を負担し、幸福の科学の会員向け雑誌である月刊「幸福の科学」誌を購読している。正会員は、大川主宰に帰依し、大川主宰の説かれる法を伝える組織である幸福の科学に帰依して、大川主宰の説かれる神から流れる心の教え(法)を日々学び生きる指針としながら、人間としての幸福と社会全体の幸福の両者をあらゆる角度から探究し、恒久ユートピアの建設をめざして反省と祈りと伝道の日々を真剣に送つているものである。正会員が幸福の科学と大川主宰に帰依していることは客観的に明白である。

(一) 宗教上の人格権の侵害

(1) 信仰を奪われかけた被害

控訴人らは、本件各記事の内容を信じ込まされ、人間として最も大切な信仰を失いかけて心が揺らぎ、その苦しみにより精神的被害を受けた。

(2) 記事の内容そのものから心に受けた被害

控訴人らは、本件各記事を直接読まされることにより、あるいはその内容を間接に聞かされることにより、その記事の内容そのものから精神的被害を受けた。

(3) 捏造記事を信じ込まされた人の言動から受けた被害

控訴人らは、本件各記事から大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどという捏造の事実を信じ込まされた家族や友人・知人等から、様々な許し難いことを言われたことにより精神的被害を受けた。

(4) 捏造記事に基づく誤解から生じた人間関係の破綻による被害

本件各記事により、控訴人らの家族や親戚、親しい友人・知人等は大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどと誤解することとなり、それが原因で、同人らと幸福の科学の会員や職員であり続けた控訴人らとの人間関係が回復困難なほど破綻してしまい、その結果控訴人らは精神的被害を受けた。

(5) 捏造記事に基づく誤解により生じた伝道阻害による被害

本件各記事により、控訴人らの友人・知人等の中に大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどと誤解する人が出てきて、それが原因で、控訴人らの伝道活動が阻害され、その結果控訴人らは精神的被害を受けた。

各控訴人ごとの具体的な被害の数は、別紙(四)「伝道活動に関する被害リスト」記載のとおりである。

(6) 捏造記事に基づく誤解により生じた差別的取扱いによる被害

本件各記事により、大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどと誤解する人々が出てきて、控訴人らはその人々から幸福の科学の会員や職員であることを理由とした差別的取扱いを受け、その結果精神的被害を受けた。

(7) 捏造記事に基づく誤解により生じた信用・売上低下による被害

控訴人らのうち控訴人石畑美千代ら一部の者は、幸福の科学の会員であることを前面に掲げて客商売をしていたが、本件各記事により、大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどといういわれのない悪評が流布されたため、直接的に店の信用低下、売上の大幅な減少を来し、その結果精神的被害を受けた。

(二) 名誉権の侵害

控訴人らは、本件各記事により、幸福の科学が「カネ集めと人集めに狂奔している」「バブル宗教」「危険な宗教」だとか言われ、あるいは「ネズミ講」と同じと根拠もなく断じられ、挙げ句の果ては「こんなものがはびこるのは日本の不幸だ!」とまでおとしめられたことによつて、その正会員として世間に顔向けできないところまで追込まれ、自らの名誉を大きく侵害された。

さらに、本件各記事により、「幸福の科学の信徒たちは嘘ばかりつく」(週刊フライデー平成三年九月二七日号)とか「九月二日から様々な業務妨害をした会員たち」(週刊現代同月二八日号)などと大きく報じられ、幸福の科学の会員としての名誉は大きく侵害された。

(三) 伝道の自由の侵害

本件各記事により、控訴人らの友人・知人等の中に大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどと誤解する人が出てきて、それが原因で、控訴人らの伝道活動が阻害された。各控訴人ごとの具体的な被害の数は、別紙(四)「伝道活動に関する被害リスト」記載のとおりである。

被控訴人らの本件各行為は、控訴人らの伝道活動を阻害することにより、控訴人らの宗教上の人格権を侵害するとともに、憲法二〇条の保障する信教の自由に含まれる伝道の自由を侵害するものであり、その結果控訴人らは精神的被害を受けた。

(四) 財産的損害

控訴人らのうち控訴人石畑美千代ら一部の者は、幸福の科学の会員であることを前面に掲げて客商売をしていたが、本件各記事により、大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどといういわれのない悪評が流布されたため、直接的に営業上の信用低下、売上の大幅な減少を来し、次に述べるとおり、現実に財産的損害を被つた。

<1> 控訴人石畑美千代は、「寿美鈴会」という花柳流の日本舞踊の教室を経営しているが、本件各記事の影響により、二六人いた生徒が次々とやめて平成三年一〇月には八人に激減し、月に一三万円あつた月謝収入が九万円も減少した。その結果、同控訴人は、平成三年一〇月から平成五年二月まで一七か月間に、約一五三万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つた。

<2> 控訴人大賀宣亨は、「大賀製図事務所」の屋号で土木建設業用の地図や地形図を作成する業務を行つているが、平成三年一〇月になると、本件各記事の影響により、同控訴人の得意客である六社からの仕事の注文が途絶えてしまつた。同控訴人は、右六社と月額平均七万円の取引をしていたものであり、右注文が途絶えたことにより、平成三年一〇月から同年一二月まで三か月だけをとつてみても、約一二〇万円もの得べかりし利益を失い、同額の損害を被つたことになる。

<3> 控訴人大山恵生は、従業員三人を雇つて「加古川整体院エル・カイロプラティック研究所」の屋号でカイロプラティック療法の治療院を経営しているものであり、平成三年当時は、月に二五〇人ほどの患者があり、治療代は一人一回四〇〇〇円で月額約一〇〇万円の収入があつたところ、本件各記事の影響により、同年九月ころから、毎週二回(毎月八回)を来院していた常連の患者のうち少なくとも一〇人が治療継続中であるのに来院しなくなつた。右患者はまだ四か月程度は通院すべき状況にあつたから、同年一二月までに限定しても、同控訴人は、約一三〇万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つたことになる。

<4> 控訴人岡田宰治は、従業員三人を雇い「岡田整骨院」の屋号でカイロプラティックによる整体療法の治療院を経営しているものであり、平成三年当時は、月に延べ約六〇〇人の患者があり、治療代は一人一回平均五〇〇〇円であつて、月額約三〇〇万円の収入があつたところ、本件各記事の影響により、同年九月から毎月四回来院していた常連患者二五人が来院しなくなり、収入が月に約五〇万円減少した。右収入の減少は少なくとも同年一二月まで続き、控訴人は、同年九月から同年一二月までの四か月間で約二〇〇万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つた。

<5> 控訴人岡本佳男は、妻と二人で「岡本理容店」を経営しているものであるが、本件各記事の影響により、平成三年八月より、一か月に一回は来店する常連客のうち少なくとも二〇人が来店しなくなつてしまつた。理髪代は一人平均約三〇〇〇円であるから、右常連客の減少により月額約六万円の売上の減少となり、同控訴人は、平成三年八月から平成五年二月まで一九か月間で約一一四万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つた。

<6> 控訴人小川意知郎は、妻と「小川商店」の屋号で、たばこや駄菓子のほか、低周波治療器や幸福の科学出版の書籍の販売をしているものであり、当時は、幸福の科学出版の書籍の売上が月額平均約一二万円あり、一台一六万五〇〇〇円の低周波治療器も月二台売れていたところ、本件各記事の影響により、右書籍の売上は平成三年七月が約五万円、同年八月が約四万円、同年九月が約二万円に急減し、同年一〇月、一一月は各約一万円、同年一二月は約三万円という状況になり(同年七月から一二月までの売上の減少は合計で約五六万円となる。)、また、低周波治療器は、同年一〇月から一二月までの三か月間一台も売れなかつた(右三か月間の売上の減少は九九万円になる。)。

同控訴人は、右売上減少により、平成三年七月から同年一二月までの間に約一五五万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つた。

<7> 控訴人辻岡邦夫は、有限会社美貴という会社形態で「ペアースポットパート」という美容院チェーン(三店舗)を経営しているものである。右美容院チェーンでは、平成三年当時は、一店当たり平均して月に五〇〇人位の客があり、料金は一人平均五〇〇〇円で一店舗当たり月額約二五〇万円、三店で月額合計約七五〇万円の売上があつたところ、本件各記事の影響により、同年九月頃から、客足が落ちて売上が落ち始め、同時平行の形でスタッフが次々と辞めて行つた。その状況は翌年も続き、平成四年八月には二号店を閉店までして経営を固めたが売上は回復せず、同年一月から平成五年三月までの一五か月間で約一五〇〇万円の売上の減少となり、加えて、平成三年九月から短期間のうちに一三人ものスタッフが辞めるという異常が続き、急ぎ紹介業者を通じて一三人を補充したが、その紹介料として一人当たり一五万五〇〇〇円、合計二〇一万五〇〇〇円を要し、このことも経営を圧迫した。

右の苦境を乗り切るため、同控訴人は、経営者として、それまで月額約七〇万円であつた自分の給与を平成三年一〇月分から月額約四〇万円に引き下げざるを得なくなり、その結果、同月から平成五年三月までの一八か月間で約五四〇万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つた。

<8> 控訴人寺田雅俊は、「イラストボックス・パオ」の屋号でイラストレーターの仕事をしているものであるが、本件各記事の影響により、得意先から受注することになつていた約二〇〇万円の収入を得られる仕事がキャンセルされてしまい、同控訴人は同額の損害を被つた。

<9> 控訴人子日理石は、「ねのひ時計店」の屋号で貴金属類、時計、メガネの販売業をしているものであり、平成三年当時、月額約三〇〇万円の売上を維持していたところ、本件各記事の影響により、同年七月から右売上が月額約三〇万円も減少し、同年一二月までの六か月間で約一八〇万円の損害を被つた。右売上が従来の状況に回復するのに平成四年七月頃までかかつた。

<10> 控訴人平井崎子は、夫と「フジマン」の屋号で小規模の紳士服小売店を経営しているものであり、平成三年七月以降の売上を前年同月比でみると、同年七月は約一五万円、同年八月は約三一万円上回つていたのに、本件各記事の影響により、同年九月には約三〇万円も下回り、同年一〇月は約六七万円、同年一一月は約一〇二万円、同年一二月は約一二五万円も下回つてしまい、右売上の減少により、同控訴人は、合計約三〇四万円の損害を被つた。

<11> 控訴人宮地金美は、従業員一人を雇い「宮地整骨院」の屋号で整体治療院を経営しているものであり、平成三年当時は、月に延べ約一二〇人の患者があり、治療代は一人一回平均五〇〇〇円であつて、月額約六〇万円の収入があつたところ、本件各記事の影響により、同年九月から毎月二回来院していた常連患者八人が来院しなくなり、収入が月に約八万円減少した。右常連客は平成四年六月頃まで通院する予定であつたから、同控訴人は、右常連客が来院しなくなつたことにより、合計約八〇万円の得べかりし利益を失い、同額の損害を被つた。

<12> 控訴人山田和正は、「有限会社三恵ハウス」という不動産会社を経営しているものである。同会社の平成二年一〇月から平成三年九月までの事業年度の売上は約三五六〇万円であつたが、本件各記事の影響により、取引が低調になり、平成三年一〇月から平成四年九月までの事業年度の売上は約二二四〇万円に落ち込み、売上の減少額は一年で約一三〇〇万円に上つた。

同会社の売上が著しく減少したため、同控訴人は、平成四年に入つてから、月額約七〇万円であつた自分の給与を月額約四〇万円に引き下げざるを得なくなり、その後も売上が回復しないため、給与の減額を現在まで継続しており、その結果、同控訴人は、平成四年一月から平成五年二月までの一四か月間で収入が合計約四二〇万円減少し、同額の損害を被つた。

3  被控訴人らの責任

(一) 被控訴人らは共謀して本件各行為をしたものである。

そうでないとしても、本件各雑誌等はいずれも実質的に被控訴人会社の出版物であり、被控訴人元木、同森岩、同佐々木は被控訴人会社の社員であり、代表取締役である被控訴人野間の指揮監督下にあつたこと、本件各記事の用語には共通するものが多く、幸福の科学及び大川主宰に対する揶揄的姿勢も似通つていること、週刊現代と週刊フライデーの間で共通の資料の使い回しがみられること、本件各雑誌等では、本件各記事を始めとして、幸福の科学及び大川主宰に対する誹謗中傷記事の掲載頻度が実に他社の四倍から五倍にも達していること等を考え合わせると、本件各行為には、客観的関連共同性、すなわち結果の発生に対して社会通念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性があるといえる。したがつて、被控訴人らは、共同不法行為者として、連帯して本件各行為により控訴人らの被つた損害を賠償する義務がある。

(二) 本件各行為が共同不法行為に当たらないとしても、被控訴人らは、次のとおり不法行為責任を免れない。

(1) 被控訴人早川、同島田

同被控訴人らは、幸福の科学及び大川主宰について記事を書く場合には、その教えに帰依している幸福の科学の正会員の人格的利益及び財産的利益等を侵害することのないように記事を執筆すべき義務がある。しかるに、同被控訴人らは、右注意義務に違反して本件各記事を執筆し前記雑誌に掲載させた。したがつて、同被控訴人らは、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う。

(2) 被控訴人元木、同森岩、同佐々木

およそ雑誌の編集者は、記事を掲載するについて、その記事の内容が適切であるか否かを判断し、他者の人格的利益及び財産的利益等を侵害することのないよう注意すべき義務を負つている。しかるに、同被控訴人らは右義務に違反して、本件各記事を各雑誌に掲載し販売させた。したがつて、同被控訴人らは、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う。

(3) 被控訴人会社

およそ雑誌の出版・販売を業とするものは、他者の人格的利益及び財産的利益等を侵害するような記事を掲載した雑誌等を出版・販売しないようにする義務を負つている。しかるに、被控訴人会社は、右義務に違反して、本件各記事の掲載された雑誌等を出版し販売した。したがつて、被控訴人会社は、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う。

また、被控訴人会社は、被控訴人元木、同森岩、同佐々木を雇用していることから、民法七一五条の使用者としての責任をも負うものである。

(4) 本件各雑誌等の出版・販売行為は、控訴人らを始めとする多数の人々の人格的利益及び財産的利益等を侵害する不法行為であるから、それが反復継続して行われている場合、被控訴人野間は、被控訴人会社の代表取締役として、右不法な出版・販売という業務を中止する措置を講ずべき義務を負うものである。しかるに、同被控訴人は、これを放置し、何らの適正な措置も講じなかつた。したがつて、被控訴人野間は、民法七〇九条に基づく不法行為責任を負う。

(5) 被控訴人らの不法行為は、<1>週刊フライデーに関する、被控訴人早川の執筆者としての行為、同元木の編集者としての行為、同野間の右不作為、被控訴人会社の出版・販売行為の各不法行為、<2>週刊現代に関する、被控訴人森岩の編集者としての行為、同野間の右不作為、被控訴人会社の出版・販売行為の各不法行為、<3>月刊現代に関する、被控訴人島田の執筆者としての行為、同佐々木の編集者としての行為、同野間の右不作為、被控訴人会社の出版・販売行為の各不法行為、<4>日刊ゲンダイ及びスコラに関する、被控訴人野間の右不作為、被控訴人会社の出版・販売行為の各不法行為の四グループの不法行為に分けられ、各グループ内の各被控訴人らの責任は、不真正連帯債務の関係に立つ。

4  請求額

本件各記事のそれぞれが控訴人らに与えた精神的損害を慰謝するには、各一〇〇万円を下回らない金額をもつてすべきである。

(一) 共同不法行為が成立する場合の請求額

控訴人ら各人は、共同不法行為に基づき、被控訴人ら各自に対し、慰謝料の一部請求として各一〇〇万円とこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

ただし、前記2(四)記載の控訴人ら各人は、本訴において、右2(四)記載の各財産的損害の額のうち各五〇万円と精神的被害に関する慰謝料各五〇万円の合計各一〇〇万円とこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 共同不法行為が成立しないとした場合の前記3(二)の四つのグループの不法行為者に対する各請求額

控訴人ら各人は、前記3(二)(5)<1>の週刊フライデーに関する不法行為については、被控訴人早川、同元木、同野間、被控訴人会社各自に対し、同<2>の週刊現代に関する不法行為については、被控訴人森岩、同野間、被控訴人会社各自に対し、同<3>の月刊現代に関する不法行為については、被控訴人島田、同佐々木、同野間、被控訴人会社各自に対し、同<4>の日刊ゲンダイ及びスコラに関する不法行為については、被控訴人野間、被控訴人会社各自に対し、それぞれ慰謝料等の一部請求として各二五万円とこれに対する平成三年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

六  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、本件各記事が幸福の科学ないし大川主宰を誹謗中傷し、その名誉を毀損するものであるとの点、日刊ゲンダイ、スコラは、実質的には、被控訴人会社が発行しているものとみなし得るとの点は否認し、その余は争う。

2  同2の事実は争う。

3  同3の事実のうち共謀の事実は否認し、その余は争う。

4  同4の事実は争う。

七  被控訴人らの主張

1  本件で控訴人らが加害行為と主張するのは、幸福の科学及び大川主宰に関する記事の執筆ないし掲載等であるところ、右記事が幸福の科学又は大川主宰の名誉を毀損するものであれば、幸福の科学又は大川主宰は不法行為に基づく損害賠償請求ができるものである。このように加害行為の直接の被害者が自ら司法救済を求めることが可能な場合には、それ以外の第三者については原則として不法行為は成立せず、それが成立するのは生命侵害行為の被害者の近親者がそれにより精神的苦痛を受けた場合など特殊な場合に限定されるものと解される。

2  新興宗教のうち主要なものの一つである幸福の科学及びその教祖である大川主宰に関する事柄は、極めて重要な公共の関心事であり、これに関する記事を扱う本件各出版行為は、表現の自由の中でも特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであり、不法行為法上このような出版行為を制約できる権利は、権利として確立した明確なものでなければならず、かつ出版の自由との比較において優るとも劣らない重大な権利である必要がある。

しかるに、控訴人らのいう「宗教上の人格権」における「自らが帰依する宗教団体及びその信仰の対象たる御本尊を、行き過ぎた誹謗中傷の言論で傷つけられて心の静穏を乱されない利益」なるものは、実定法上の根拠を欠くのみならず、それは個々人の有する宗教的感情や宗教観ないしは教団及び教祖に対する感情、教団及び教祖との関係等によつても大きく左右される極めて個別的、主観的な性格のものであつて、その具体的な概念、内容、限界等が不明確である。また、その権利主体の面からみても、控訴人らの主張する「幸福の科学の正会員」たる地位は、控訴人らが自ら認めるとおり幸福の科学と控訴人らとの私的契約によつて生じる両者間のみで意味のある地位であり、かつ、帰依の有無は明らかに幸福の科学の教義に関する個々人の信仰上の内心の問題であり司法審査の対象とならない事項であつて、宗教上の人格権の権利主体の範囲に明確性を与えるものではない。したがつて、控訴人らのいう「宗教上の人格権」は法的保護の対象となる利益に該当しないものである。

3  本件各記事によつて控訴人らの名誉が侵害されたとする控訴人らの主張は、宗教上の人格権が侵害されたとの控訴人らの主張を言い換えたものにすぎない。右宗教上の人格権が法律上保護されるべき権利・利益に該当しないことは、右2記載のとおりであつて、控訴人らの右主張は失当である。

4  控訴人らは、本件各記事によつて控訴人らの伝道の自由が侵害されたとも主張するが、伝道活動そのものが強制等を伴うことによつて阻害されたのではなく、従前に比べて困難を伴うようになつたというにすぎない。

確かに、信教の自由には布教宣伝活動の自由が含まれるが、布教宣伝活動の自由には、他の宗教を批判したり、他の宗教の信者を説得して改宗させることも含まれること、布教宣伝活動も表現行為であること、信教の自由には宗教を信じない自由も含まれていること等を考えると、ある宗教に対しての批判行為は、それが本件各記事の執筆、掲載等のように表現行為として行われる限り、布教宣伝活動の自由に対する不当な侵害行為とならないことは明白である。そもそも伝道活動に困難が伴うことは当然のことであつて、ある宗教が人に受け入れられるか否かは、当該宗教の教義・儀礼等が伝道活動の対象となつた人の心的内奥に共鳴するものがあるか否かにかかつているのである。

第三  証拠関係《略》

第四  当裁判所の判断

一  本案前の主張について

当裁判所も、被控訴人らの本案前の主張は理由がないものと判断する。その理由は、原判決の「第三 争点に対する判断」一(原判決一五枚目裏一〇行目から同一六枚目表末行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、同一五枚目裏末行の「大川主宰」から同一六枚目表一行目の「しているものではなく、」までを「控訴人らは、本件において、単に幸福の科学の教祖である大川主宰に対する「不敬行為」があつたということだけを理由に損害賠償を請求しているものでも、大川主宰に対する「不敬行為」を行う雑誌等の出版行為は一切許されないとする立場から、損害賠償請求をしているものでもなく、」と、同二行目から三行目にかけての「宗教上の人格権自体ないし法的利益」を「宗教上の人格権、名誉権、伝道の自由等」と、同四行目の「精神的損害」を「精神的損害等」とそれぞれ改める。

二  本案について

1  控訴人らは、被控訴人らの本件各行為により、大川主宰及び幸福の科学を誹謗中傷され、その結果、幸福の科学の正会員である控訴人らは、宗教上の人格権の具体化としての「自らが帰依する宗教団体及びその信仰の対象たる御本尊を、行き過ぎた誹謗中傷の言論により傷つけられて心の静穏を乱されることのない利益」を侵害され、精神的被害を受けた旨主張する。

そこで、まず、控訴人ら主張の利益の侵害について不法行為が成立するかどうかについて判断する。

控訴人らは、要するに、本件各記事により自己の所属する宗教団体である幸福の科学ないしその教祖である大川主宰を誹謗中傷されたことにより、右宗教団体の正会員としての信仰生活上の利益、信仰に伴う宗教感情を介して、控訴人らに精神的被害が生じたとし、その法的救済を求めるものと解されるところ、控訴人らの主張する利益の侵害は、控訴人らと幸福の科学や大川主宰との間に宗教上の一定の関係があるが故に、幸福の科学や大川主宰の権利の侵害が、控訴人らにいわば反射して生じたものとみることができる。

右の見地に立つて、行為者が特定の団体又はその象徴となるべき者に対する表現行為でもつてその名誉を侵害したことにより、権利・法的利益として確立されていない右団体の構成員の主観的、感情的な利益等、一般人の行動を制約する力の弱い利益が侵害されたという場合を考えるに、被侵害利益の性質のほか、右行為は団体又はその象徴となるべき者に向けられた表現行為であり、右構成員の利益の侵害への危険性が小さいことに照らし、行為者に故意はなく過失があるにすぎないときは、右利益の侵害の違法性は小さいといえる。それに、右行為者にとつて、右団体の名誉を侵害すれば、その構成員の何らかの利益を侵害するに至ることは、抽象的には予見可能といえるであろうが、右行為者が右団体の構成員数、各構成員の地位、各構成員と右宗教団体の間の内部的関係及び各構成員の受ける被害の内容いかん等について具体的な認識を有していないのに、このような漠然とした予見可能性があるというだけで右侵害について損害賠償責任を負わせるのは、個人・法人の行動に際してのリスクの予測、計算を著しく困難にし、その活動の自由を過度に制約することになること、また、右の場合には、直接の被害者である右団体又はその象徴となるべき者がその権利・利益の侵害を理由に法的救済を受けることにより、通常はその構成員の受けた精神的被害等も精神的苦痛が慰謝されるなどして相当相度回復されるに至るべき性質のものであるから、右構成員個人の受けた利益侵害について損害賠償請求を認めるべき必要性は高くないことなど、個人・法人の活動の自由の尊重、損害の公正な配分、訴訟経済等の観点からみて、右侵害について右行為者に過失による不法行為責任を課するのは相当とはいえない。したがつて、右のような団体構成員の利益の侵害については、右行為者に故意又は害意があり右侵害行為が公序良俗に反するといえる場合を除き、違法とすることはできず不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

本件についてみると、控訴人らの主張する「自らが帰依する宗教団体及びその信仰の対象たる御本尊を、行き過ぎた誹謗中傷の言論により傷つけられて心の静穏を乱されることのない利益」なるものは、憲法その他の実定法上確立された権利といえず、また、広く平均的法成員によつて、「権利」として承認され不法行為からの保護に値すると感じられているものとはいえない。

法律上の保護に値する利益かどうかという観点からみても、控訴人ら主張の右利益は、もともと生命、身体、健康よりも保護の必要性が低いばかりか、信者個人の有する宗教観、宗教感情、宗教団体及び教祖との内部関係等によつて左右される極めて主観的・感情的なものであり、単に正会員というだけでは、その内容、範囲が客観的に不明確であつて、法的に保護すべき限界を客観的に定めることが困難なものである。さらに、宗教それ自体が「心の静穏」を生むものであつてその侵害に対しては自己復元性を有する。これらの諸点を考慮すると、社会生活全体における一般人の表現活動等の行動の自由と対比した場合、右利益それ自体としては、一般人の行動の自由(本件では言論、出版活動の自由)を制約する力が弱いといわざるを得ない。また、本件各記事が幸福の科学ないし大川主宰の名誉を毀損するものであるとすれば、直接の被害者である幸福の科学ないし大川主宰はその権利の侵害を理由に法的救済を求めることができるのであり、幸福の科学ないし大川主宰と控訴人らとの関係に照らし、幸福の科学等が法的救済を得るならば、間接被害者である控訴人らの受けた精神的被害も精神的苦痛が慰謝されて相当程度回復されることになるものと考えられる。

したがつて、被控訴人らが幸福の科学ないし大川主宰の名誉を毀損し、ひいて控訴人ら主張の右利益を侵害したとしても、その侵害について被控訴人らに故意や害意があり右侵害行為が公序良俗に反するといえる場合を除き、右侵害を違法とすることはできず不法行為は成立しないものというべきである。

そして、一般向けの通俗的な週刊誌、日刊紙に対する社会的評価からみて、本件各週刊誌等の記事の内容が同種雑誌等に社会的に要求される報道のルールから外れたものとはたやすく断定できず、本件月刊総合雑誌についても、その記事の内容が社会的に要求される論説のルールから外れたものとはたやすく断定できないのであつて、被控訴人らが控訴人ら個々人の信仰生活の利益、宗教感情等を侵害することを意図して本件各記事を執筆、掲載したと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  控訴人らは、本件各記事により、幸福の科学が「カネ集めと人集めに狂奔している」「バブル宗教」「危険な宗教」だとか言われ、あるいは「ネズミ講」と同じと根拠もなく断じられ、挙げ句の果ては「こんなものがはびこるのは日本の不幸だ!」とまでおとしめられたことによつて、その正会員として世間に顔向けできないところまで追込まれ、自らの名誉を大きく侵害された旨、また、本件各記事により、「幸福の科学の信徒たちは嘘ばかりつく」(週刊フライデー平成三年九月二七日号)とか「九月二日から様々な業務妨害をした会員たち」(週刊現代同月二八日号)などと大きく報じられ、幸福の科学の会員としての名誉は大きく侵害された旨主張する。

しかしながら、特定の団体の名誉を毀損する表現行為があつたとしても、右団体の構成員が少数である場合など右行為が構成員である各個人をも具体的に特定して対象の範囲に含めているものとみられる特別の事情があれば格別、そうでない場合は社会的にみてそれが団体の構成員である各個人の名誉を毀損したものということはできない。本件各記事の内容、趣旨からすれば、それらが批判の対象としているのが幸福の科学ないし大川主宰であつて、幸福の科学の正会員である控訴人ら各個人を特定して批判の対象に含める趣旨のものでないことは明らかであり、また、本件において、幸福の科学等を批判する被控訴人らの表現行為が幸福の科学の正会員である各個人を対象としているものとみるべき特別の事情を認めるに足りる証拠はないのであつて、控訴人ら主張の各記事が控訴人ら個々人の社会的評価や信用を低下させたものということはできない。

また、控訴人らの主張が、幸福の科学ないし大川主宰を誹謗中傷する本件各記事により、控訴人らが幸福の科学の正会員としてその内心における名誉感情を不当に侵害されたことをいう趣旨であるとしても、右の利益は主観的・感情的なものであり、前記の「自らが帰依する宗教団体及びその信仰の対象たる御本尊を、行き過ぎた誹謗中傷の言論により傷つけられて心の静穏を乱されることのない利益」と同様、一般人の行動の自由を制約する力の弱い利益といわざるを得ず、また、幸福の科学ないし大川主宰と控訴人らとの関係に照らし、直接の被害者である幸福の科学ないし大川主宰がその権利の侵害を理由に法的救済を得ることにより、間接被害者である控訴人の受けた精神的被害も精神的苦痛が慰謝されて相当程度回復されることになるものと考えられる。したがつて、被控訴人らが幸福の科学ないし大川主宰の名誉を毀損し、ひいて控訴人ら主張の右利益を侵害したとしても、その侵害について被控訴人らに故意や害意があり右侵害行為が公序良俗に反するといえる場合を除き、右侵害を違法とすることはできず不法行為は成立しないものというべきである。

本件各記事の内容、趣旨に照らし、被控訴人らが控訴人ら個々人の名誉感情を侵害することを意図して本件各記事を執筆、掲載したと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  控訴人らは、被控訴人らの本件各行為により、控訴人らの伝道活動が阻害され、憲法二〇条の保障する信教の自由に含まれる伝道の自由を侵害された旨主張するところ、私人相互間において憲法二〇条によつて保障される信教の自由の侵害があり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるときは、民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定により法的保護が図られるべきである。そして、公権力によつて伝道活動を制限されず、これを理由に不利益を課されることがないという意味での伝道の自由も信教の自由の一部として憲法二〇条により保障されているものと解される。

しかしながら、控訴人らの主張は、要するに、強制等により伝道活動を禁止・制限され、又は実力行使等により直接的に伝道活動を妨害されたというものではなく、幸福の科学ないし大川主宰を誹謗中傷する本件各記事により本件各雑誌等の購読者等が幸福の科学ないし大川主宰に偏見又は悪印象を持ち、その結果控訴人らが円滑に伝道活動を行うことが困難になつたというものである。そこで控訴人らが侵害されたと主張する「伝道の自由」なるものの実質は、控訴人らの所属する宗教団体や信仰の対象たる者の名誉を毀損するような不当な言論活動等により伝道成功の可能性に悪影響を及ぼされないという利益にすぎないと解されるが、憲法二〇条により、宗教団体の構成員である信者個人に右のような意味での利益が信教の自由の内容をなすものとして保障されているものと解することはできない。

また、特定の宗教の伝道活動によりその対象者が当該宗教の教義等に共鳴し、入信するかどうかは、結局は思想の自由市場における右対象者の自由意思による選択であり、個別の伝道が成功するかどうかには多様かつ不確定な要素が様々に影響し、その成功の可能性が侵害されたか否かは容易に明確にできないのであつて、控訴人らの主張する右の利益は抽象的で具体性を欠き、不確実なものであり、一般人の行動の自由(本件では信教の自由と対等な言論、出版活動の自由)を制約する力が弱いといわざるを得ず、さらにその侵害は間接的で、幸福の科学ないし大川主宰の被害回復により、控訴人らの被害も回復されるに至るべき性質のものと解される。

したがつて、前記1において述べたのと同様の理由により、被控訴人らが幸福の科学ないし大川主宰の名誉を毀損し、ひいて控訴人ら主張の右利益を侵害したとしても、その侵害について被控訴人らに故意や害意があり右侵害行為が公序良俗に反するといえる場合を除き、右侵害を違法とすることはできず不法行為は成立しないものというべきである。

本件各記事の内容、趣旨に照らし、被控訴人らが控訴人ら個々人の伝道活動を阻害することを意図して本件各記事を執筆、掲載したと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  控訴人らのうち控訴人石畑美千代ら一部の者は、幸福の科学の会員であることを前面に掲げて客商売をしていたが、本件各記事により、大川主宰が「おかしな」人物であり、幸福の科学が「おかしな」宗教だなどといういわれのない悪評が流布されたため、営業上の信用低下、売上の大幅な減少を来し、その結果、控訴人らは現実に財産的損害を被つた旨主張する。

控訴人らの主張は、要するに、幸福の科学ないし大川主宰を誹謗中傷する本件各記事により本件各雑誌等の購読者等が幸福の科学ないし大川主宰に偏見又は悪印象を持ち、その結果幸福の科学の正会員であることを前面に掲げて営業を行つている控訴人らの信用が低下し、売上が減少したというものであり、その侵害されたと主張する営業上の利益なるものの実質は、控訴人らの所属する宗教団体やその信仰の対象たる者の名誉を毀損するような不当な言論活動等により控訴人らの各営業に係る顧客獲得の可能性に悪影響を及ぼされないという利益にすぎないと解される。しかしながら、一般に顧客がどの商人から商品又はサービスを購入するかは市場経済における自由競争の許で顧客の自由意思に基づき決定されることであり、顧客獲得には多様かつ不確定な要素が多分に影響するのであつて、控訴人らの主張する右の利益は抽象的で具体性を欠き、不確実なものであり、一般人の行動の自由を制約する力が弱いといわざるを得ない。また仮に右利益の侵害があるとしても、営業から宗教性を払拭しその分営業努力をし、あるいは幸福の科学ないしは大川主宰の被害が回復されることにより、控訴人らの被害も回復されるに至るべき性質のものと解される。

したがつて、前記1において述べたのと同様の理由により、被控訴人らが幸福の科学ないし大川主宰の名誉を毀損し、ひいて控訴人ら主張の右利益を侵害したとしても、その侵害について被控訴人らに故意や害意があり右侵害行為が公序良俗に反するといえる場合を除き、右侵害を違法とすることはできず不法行為は成立しないものというべきである。

本件各記事の内容、趣旨に照らし、被控訴人らが控訴人ら個々人の営業上の利益を侵害することを意図して本件各記事を執筆、掲載したと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

5  そうすると、控訴人ら主張の名誉権の侵害があるとはいえず、また、控訴人ら主張のその余の権利・利益の侵害によつて不法行為は成立しないものというべきであるから、控訴人らの本件各請求は、その余の点については判断するまでもなく理由がない。

第五  以上の次第で、控訴人らの本件各請求を棄却した原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がない。そこで、本件各控訴を棄却することとし、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 熊谷絢子 裁判官 青柳 馨)

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